片頭痛(偏頭痛)の新薬・注射を医師が解説 「抗CGRP製剤」の効果や治療の副作用は?)

Medical DOC (2023/08/24

頭痛に対する新しい治療があるそうです。頭痛に「注射薬」というイメージはあまりないと思うのですが、2021年から片頭痛に対する新たな選択肢が増えました。今回は、片頭痛の治療法や使用できる薬剤の種類について、「さくら脳神経クリニック」の小池先生に解説していただきました。

治療法の前に知っておきたい片頭痛の特徴・原因・症状 頭痛との違い

編集部:
まず、片頭痛について教えてください。
小池先生:
片頭痛は、日本国内において非常に有病率の高い疾患で、片頭痛に悩んでいる人は日本人の5~10%にも及ぶと言われています。とくに女性ホルモンと関係があるため、若年女性に多いとされています。片頭痛は日常生活にも影響を及ぼし、症状が強い場合は仕事を休まざるを得ない人なども多くいらっしゃいます。
編集部:
どんな痛みが片頭痛なのでしょうか?
小池先生:
「ズキンズキンと脈を打つような痛み」「ストレスや気圧の変化で悪化する」「1時間~数日続く」「匂いに過敏になる」「吐き気を伴う」などの特徴があります。片頭痛の名前の通り、頭の片側が痛む人だけでなく、両側に症状が出る人もいらっしゃいます。
編集部:
片頭痛の原因はなんですか?
小池先生:
片頭痛のメカニズムは、はっきりとはわかっていません。今のところ、脳そのものに原因があるという「中枢神経要因説」と、三叉神経やそれが取り巻く血管などが原因という「三叉神経要因説」などがあります。また、女性ホルモンや気圧などとも関係していると言われています。
編集部:
片頭痛と頭痛は違うのですか? また、片頭痛と偏頭痛の違いは?
小池先生:
「頭痛」にはいくつか種類があり、そのうちの1つが片頭痛です。 偏頭痛と片頭痛は、病態としては同じものを指していますが、医学的には「片頭痛」が正しい用語です。

片頭痛の対策・予防で使われる注射の種類と効果・副作用の有無

編集部:
医療機関でおこなわれる片頭痛治療を教えてください。
小池先生:
医療機関でできる片頭痛の治療にはいくつかあります。従来からおこなわれているものとして有効性が高いのは「トリプタン製剤」です。脳の血管平滑筋や、硬膜の血管に付着している神経、三叉神経などに作用する薬で、片頭痛発作の際に片頭痛の痛み止めとして使用します。そのほかには、「バルプロ酸ナトリウム」「カルシウム拮抗薬」「ベータ遮断薬」などの薬を使用して、片頭痛の発作を予防する治療もおこなわれています。
編集部:
新しい治療法もあるのですか?
小池先生:
はい。2021年より新たな選択肢が増えています。「抗CGRP製剤(ヒト化抗CGRPモノクローナル製剤)」という注射薬です。「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」は三叉神経などに働き、痛みを出している根本物質と言われています。CGRPを抗CGRP製剤でブロックすることによって、痛みの抑制が期待できます。
編集部:
片頭痛持ちの人であれば、誰でも抗CGRP製剤を使えるのですか?
小池先生:
医療機関で片頭痛と診断が確定しており、症状の重い人が対象となります。まず、バルプロ酸ナトリウムやカルシウム拮抗薬などの予防薬を内服していただきます。そこで、効果が不十分であったり、副作用や飲み合わせの問題で予防薬の内服が困難だったりした人が、抗CGRP製剤の適応となります。
編集部:
なるほど。色々な治療法があるのですね。
小池先生:
片頭痛はメカニズムがはっきりしないこともあり、現在は症状の経過や薬の効果を確認しながら、どのような治療が適切かを判断しています。頭痛は治療をしていても原因がはっきりしないことも多いので、オーダーメイドな治療が大切となります。

片頭痛予防ができる注射「抗CGRP製剤」の費用は? 保険適用される?

編集部:
抗CGRP製剤について、もう少し教えてください。
小池先生:
はい。ただし、先ほども触れましたが、使用条件としては以下が挙げられます。
  1. 医師から片頭痛と診断されている
  2. 片頭痛が過去3カ月の間で平均して1カ月に4日以上ある
  3. 従来の片頭痛予防薬の効果が不十分 or 副作用などで内服の継続が困難な人
これらの条件を満たしていれば、保険適用で使用可能となります。また、医師側にも処方資格が必要です。
編集部:
副作用やリスクはありますか?
小池先生:
抗CGRP製剤は注射薬なので、注射部位の腫れや発赤、かゆみなどが報告されています。また、ごく稀に回転性のめまいや便秘、蕁麻疹、アナフィラキシーなどが起こることもあります。しかし、抗CGRP製剤は内服薬と比べると副作用が起こりにくい印象です。
編集部:
抗CGRP製剤を検討するうえで知っておいた方がいいことはありますか?
小池先生:
抗CGRP製剤は、処方資格のある医師が在籍する特定の医療機関でのみ処方が可能です。そのため、事前にホームページなどで調べたり、電話で問合わせたりしてから受診することをおすすめします。
編集部:
費用についても教えてください。
小池先生:
自己負担3割だと、注射1本で約1万3000円です。これに加えて、診察料などが上乗せされます。保険適用の薬にしては高額かもしれませんが、健康保険組合によっては同月における一定額を超えた分の医療費を払い戻してくれる「付加給付制度」がある場合もあるので、加入している保険を確認してみてください。
編集部:
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小池先生:
頭痛の治療法は、ここ数年で目覚ましい進化を遂げています。予防薬などをたくさん使って対処していた人でも、新しい薬を使うことで劇的に痛みが改善できる可能性もあります。これまで頭痛に悩まされていた人は、痛みが取れるだけで生活がとても楽になるはずです。注射薬と聞くと怖いイメージがあるかもしれませんが、生活の質を上げるためにも、ぜひ新しい治療法を検討してみてください。また、2022年6月からはさらに、頭痛発作が強く出てしまった際の追加の痛み止めとして「ラスミジタン」という内服薬も発売されました。頭痛治療の選択肢がどんどん増えているので、片頭痛で悩んでいる人は自分でなんとかしようとせず、ぜひ医療機関を頼ってくださいね。

編集部まとめ

今回は、片頭痛の原因や治療薬について解説していただきました。メカニズムがわかっていない痛みだからこそ複数の治療法があり、専門家と相談しながら自分にあった方法を選択していくことが大事とのことでした。その中でも抗CGRP製剤は、痛みの根本物質にアプローチしてくれるので、高い効果が期待できます。片頭痛に悩んでいる人は、ぜひ一度お近くの医療機関で相談することをおすすめします。

【この記事の監修医師】
小池 和成 先生(さくら脳神経クリニック)
北里大学医学部卒業。その後、国立病院機構東京医療センター、東京都済生会中央病院、東京歯科大学市川総合病院、慶應義塾大学などで経験を積む。2022年、神奈川県横浜市に「さくら脳神経クリニック」を開院。日本脳神経外科学会専門医。日本脳卒中学会、日本頭痛学会の各会員。日本医師会認定産業医、難病指定医。