耳のツボを刺激し、病状の改善効果を期待する療法に「耳介療法」があります。最近ちまたで耳にする耳ツボダイエットも、この耳介療法のひとつです。
ですが意外に思われる方もいるかと思いますが、鍼灸の学校では耳ツボを教えておらず、教科書にも耳ツボの記載はありません。
理由として挙げられるのは、長い鍼灸の歴史を持つ中国で、耳ツボ(耳中穴)の記載があるのは650年ごろに書かれた古典の中のみ。それ以降はなぜか、応用発展されることがほとんどなかったためです。
しかしフランスでは、耳の特定のツボと体の部分との関連付けに関して研究や、施術の開発が行われています。
その始まりは1957年。フランスのDr.Paul Nogier(ポール・ノジェ医師)が、耳の反射ポイント(ツボ)に微弱な電気を流して周波数の乱れを整える「オリキュロセラピー」を開発しました。
2006年のWHO主導によるツボの国際基準化の際は、耳ツボは東洋医学とは別物とされています。
ちなみにWHOによる「耳介治療」の用語標準化は、1990年にフランス・リヨンで行われています。
1970年代初めごろ手術後の痛みを軽減する効果を研究していた香港の精神外科医・温医師が、アヘン中毒者の耳ツボに電気刺激を与えると禁断症状が寛解し離脱に効果があることを発見し、この報告がアメリカに伝わり以降の大規模研究へ進むきっかけとなりました。
現在では世界中で薬物やアルコールそして処方薬依存、自然災害後の被災者や、退役軍人のPTSD治療にも耳ツボが用いられています。
特に耳は戦場や病床で刺鍼しやすく痛みに対して即効性があるために、戦場での応急処置「バトルフィールドアキュパンクチャー」として米軍でも取り入れられているのです。
(中村幹佑/鍼灸師)