めまいのリハビリ 生活習慣も大事)
時事通信 (2023/07/26
めまいの原因はさまざまですが、耳から来る内耳性と脳などが原因の中枢性に分けられることは触れました。そこで、今回はめまいの中で最も多い、フワフワするめまいに対するリハビリテーションについて解説していきます。めまいに対するリハビリの必要性は以前より指摘されており、高齢者に対するフレイル予防の点から言われてきました。しかし、最近はより幅広い人を対象に行われ始めました。主な目的は次の三つです。
◇三つの目的
- 姿勢不安定性の減少
- 機能的バランス(動作時のバランス機能)の向上
- 頭部運動時の視覚のブレの減少
この三つの具体的な対象疾患は、末梢(まっしょう)前庭障害(内耳障害=良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、突発性難聴後遺症、メニエール病など)と中枢性障害(脳血管障害後遺症など)になります。
このうち内耳障害で最も多い良性発作性頭位めまい症に対するリハビリの一例について説明します。頭部を効率的に動かし、三半規管内に混入した耳石を排出することを目的とします。
◇首と頭部を動かす
「Epley法」と呼ばれるこの方法は、三半規管の中の後半規管タイプに有効です。
- 患者は長座位になり、障害側に頸(けい)部を45度旋回させ、そのまま頸部が治療テーブルの端を越えて20~30度伸展させるように患者を後方へ倒します。
- 次に頭部を伸展したまま反対側へ回旋させ、患者を側臥(そくが)位にさせます。さらに、頭部を45度旋回させて、その状態を維持します。
- 最後に患者をゆっくりと座らせ、頸部を軽く屈曲させます。
一連の動作は、それぞれの肢位(体のポジション)でめまいが消失するまで、または1~2分間維持します。頭の位置を変えるときは強いめまいを訴えるため、注意が必要です。もっとも多いタイプですが、有効でない場合もあります。首が痛かったり、効果が見られなかったりした場合は、無理をせずに耳鼻科専門医に相談してください。
◇眼球を動かす
二つめは、前庭機能(内耳、中枢共通)低下症に対するリハビリです。このリハビリは、「適応(Adaptation Exercise)」、「慣れ(Habituation Exercise)」、「代償(Substitution Exercise)」を基に行います。
このリハビリ法は、頭部や眼球を動かし、網膜上の像のズレを引き起こすことにより中枢神経系で適応を起こさせ、前庭系の働きを変化させることを目的とします。実際の方法は、名前などの文字が書かれたカードを用意し、カードに書かれた文字を視線を固定して見ながら、眼球、頭部、手を上下・左右に動かします。最初は眼球および頭部のみの運動から始め、最終的に頭部と手を逆方向に動かして文字を固視(じっと見る)します。
柱となるのが「Habituation Exercise」です。1980年代に、米国の神経内科医のノレー医師がめまいの起こる動作を繰り返し行うと、めまいが減少することを提唱しました。めまいが起きやすい、起き上がりや立ち上がりなどの動作を集中的に繰り返して慣れるようにします。
◇他の機能で補う
「Substitution Exercise」は、前庭障害後に起こる機能障害を他の機能で補うことを可能にします。頸椎(けいつい)の固有受容器は、頭部運動時に前庭機能を補うことが可能です。固有受容器とは筋や関節、内耳などにあって体の位置や動きに関する情報を脳にもたらします。頸椎の固有受容器の働きを促通するには、レーザーポインターなどを頭部に取り付け、頭部の動きを視覚によりフィードバックさせることで、頭部と眼球の協調性を高めていきます。
そのほか、歩行を動画撮影をすることで経時的な変化と多職種との情報共有をする「歩行リハビリテーション」や筋カトレーニング、体のバランストレーニングなどにも取り組みます。
◇生活上の注意点
それでは、生活習慣ではどんなことに注意したらよいのでしょうか。順番に説明しましょう。
- 【起床】
- 体内時計を整えるため、毎朝一定の時間に起きる。
- 目が覚めたらカーテンを開け、朝日を浴びる。これは睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を促します。メラトニンは起床して14~16で時間に徐々に分泌され、分泌のピークを迎えると眠気を覚えます。メラトニンは光の影響を受けやすいため、朝起きて光を浴びることで分泌をコントロールすることができるのです。
- 【日中の生活性向上】
- 昼寝は1日30分以内にし、できる限り日光を浴びることや適度な運動習慣を身に付けるようにしましょう。
- カフェインやアルコールの摂取は適度に! アルコールは一時的に眠りを促進します。ただ、アルコールが分解されると覚醒作用をもたらし、眠りが浅くなってしまいます。ですから飲酒する時は、量を控え、寝る3時間前には飲み終えるようにしましょう。
- 【眠るための準備】
- 夕食後3時間は眠るための準備時間と考えましょう。食事中は交感神経が優位に働き、食後は胃や腸を働かせるため、副交感神経の働きが徐々に高まっていきます。交感神経が高まった状態で寝てしまうと、いくら寝ても疲れはたまったままになります。
- 寝る前の入浴は38~40度で15分間ゆっくり漬かります。15分のうち初めの5分間は首まで漬かり、残りの10分間はみぞおち辺りまで漬かることで、副交感神経の働きが高まり、良質な睡眠に効果的です。寝る前は機敏に動かず、ゆっくりとした動作を心掛け、スマホやパソコン操作は控え脳の刺激を抑えましょう。室内の明かりを抑えた上で、呼吸方法の訓練やストレッチ、ヨガをやってみるのもよいかもしれません。
- 【睡眠】
- 1日7時間の睡眠時間を確保しましょう。それでも熟眠感を得られなかったり、起床時に頭痛やフラフラ感があったりした時は、睡眠時無呼吸症候群を起こしている可能性もあります。
フワフワすることは誰にもありますが、生活に支障を来すような場合は原因を可能な限り探し出し、リハビリや生活を見直すように努めましょう。(了)
- 坂田英明(さかた・ひであき)
- 川越耳科学クリニック院長、埼玉医科大客員教授。元目白大学教授。日本耳鼻咽喉学会専門医、日本聴覚医学会代議員。日本小児耳鼻咽喉学会評議員。1988年埼玉医科大卒、91年帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、2005年目白大教授、15年より現職。小児難聴や耳鳴りなどの治療に積極的に取り組み、著書多数。近著に「フワフワするめまいは食事でよくなる」(マキノ出版)。