「皮膚の刺激」だけで「内臓の動き」が変化する…ついに科学が解明した「東洋医学の秘密」)
現代ビジネス (2023/08/08
「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか?
簡単に言えば「内臓の働きを調整している神経」。全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。
自律神経の電気活動をみてみよう
東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)で研究していた頃の佐藤のデータをもとに、実際の交感神経の電気活動をみてみましょう。
麻酔したネズミの腹部の皮膚をブラシでさすったり、ピンセットでつまんだりすると、胃の動きが一時的に抑えられます。
このとき、胃にいく交感神経の電気活動をみると活発になっているのがわかります。
一方、胃にいく副交感神経(迷走神経といいます)の電気活動に変化は認められません。したがって腹部の皮膚刺激で胃の動きが抑えられるのは、交感神経の働きによると考えられるわけです。
次に麻酔したネズミの前足や後足の皮膚を刺激してみましょう。今度は胃の動きが活発になります。このときは胃の交感神経活動は変化せず、胃の副交感神経の活動が活発になっています
つまり前足や後足の刺激で胃が動くようになるのは、副交感神経の働きによると考えられるのです。
麻酔したネズミのデータなので、すべてがそのままヒトに当てはまるわけではないでしょう。とはいえ、このように実際に内臓の動きとそのときの自律神経の電気活動の両方をみれば、内臓の機能と自律神経の関係がわかります。
なお、ネズミに麻酔をかけているのは、ネズミに痛みを感じさせない目的もありますが、痛みなどによる情動の影響を取り除く目的もあります。つまりここでの反射は、痛みや撫でられて気持ちよくなることによって起きているわけではありません。皮膚圧反射のように、皮膚への刺激というただそれだけのことが、無意識のうちに内臓の働きを変えてしまっているのです。
体のどこを刺激すると、どんな変化があるか ~ 体性―自律神経反射の仕組み
体性―自律神経反射について、もう少し詳しいお話をしましょう。先ほどのネズミの例では、腹部の皮膚刺激だと胃の動きが抑えられ、手足の刺激だと胃の動きが活発になりましたね。どこの皮膚を刺激するかで、内臓の反応は違ってくるのでしょうか?
そうなのです。これは、反射中枢が異なるために起きている現象。腹部の皮膚刺激による胃の反射の反射中枢は「脊髄」、かたや前足や後足の皮膚刺激による反射の反射中枢は「脳幹」なのです。
反射中枢が脊髄の場合、反射経路は脳を通りません。そのような反射においては、反射を誘発できる皮膚の刺激部位は、内臓に近いところに限られます。胃の反射なら腹部が有効であり、胃から離れた手や足の刺激では脊髄性の反射は起きません。こうした特徴を持つことから、脳を介さない反射は分節性反射とよばれています。
「分節性反射」に対して、反射中枢が脳幹にある場合は全身性反射とよばれます。分節性反射も全身性反射も「反射」であることに変わりはないので、両反射とも基本的には意識にのぼりません。ただし脳幹に中枢がある場合は、手足の刺激で血圧が上がるなど全身性に反応が及んだりします。これは脳幹に循環、呼吸などを司る中枢があるためでしょう。
皮膚刺激によって内臓機能に変化がもたらされる場合、体幹部を刺激したほうが有効な場合と、手足などを刺激したほうが有効な場合があります。鍼の治療に際しても、鍼をどこにうつかで効果は違ってくるでしょう。どこがより効果があるかは内臓によって異なりますが、実際には分節性反射と全身性反射が複雑に絡み合っているようです。
汗腺の交感神経活動をとることに始まり、体性―自律神経反射の仕組みについて、佐藤は生涯研究を重ねました。敗戦ですべてが失われた時代、東洋に伝わる医学を残したかったのでしょう。
マッサージによって血流が改善されたり、鍼や灸、按摩、指圧、湿布、カイロプラクティクなどの治療を受けることで内臓の症状が改善されたりしますね。こうした効果の基本にあるのが体性―自律神経反射というメカニズムです。
鈴木 郁子(歯学博士・医学博士)